議員辞職勧告の濫用?

意見・主張

「議員辞職勧告決議」について

近年、各地の地方議会で辞職勧告決議が話題に上がっています。

すぐに思いあたるところだけでも、

・架空のビラ印刷代を政務活動費に計上したとされる(美しすぎる)堺市議
https://www.sankei.com/west/news/170525/wst1705250039-n1.html
・「料理にゴキブリが入っている」などと飲食店を中傷した加賀市議
https://mainichi.jp/articles/20171212/k00/00m/040/094000c
・赤ちゃんを議場に連れてきた議員が話題となったのを横目に、実はその前からパワハラや兼業禁止規定への抵触が指摘され、4度にわたる辞職勧告を受けていた熊本県議
https://www.asahi.com/articles/ASKDD4JTMKDDTLVB00N.html
・委員会中に職員に向かって「首をつって死ね」と発言したさいたま市議
https://www.sankei.com/politics/news/180317/plt1803170011-n1.html

キリがないですね。紹介しているだけでも恥ずかしい。。。

辞職勧告には強制力がない

しかし、こうした例を見ても、その後に自ら辞職したり、資格がないとの決定を受けて失職したケースがある一方で、「これからも頑張ります」的に居直って議員を続けているケースもあります。

そう、議員辞職勧告決議には法的な拘束力は全くなく、「アンタ辞めた方がいいよ」という議会の意思表示でしかないのです。なので、全会一致だろうと何十回決議されようと、任期を全うするまで(再選すれば以降も)続けられる、というワケです。

一方で、強制力を伴う処分として地方自治法134条および135条に定められているのが、「除名」という懲罰です。こちらは、議員定数の1/8以上での発議、2/3以上の出席、かつ3/4以上の賛成とハードルは上がりますが、議決されれば一発アウトとなり、居直りようがありません。

除名が難しい理由

しかし、問題を起こした議員に対する議員辞職勧告が決議されることは頻繁にあっても、除名処分にまでは至るケースは稀と言えます。なぜでしょうか。それには、3/4以上の賛成という制約以外に、2つの理由があると私は思います。

法の規定は「議会内」での行動が対象

地方自治法134条で懲罰を科することができるとされているのは、「この法律並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した議員」に対してです。つまり、本会議や委員会で著しく進行を妨げたり、品位に欠ける言動や行動をとったり、正当な理由のない欠席を続けたりした場合に限り、戒告や陳謝、出席停止や除名といった処分を議決することができるのです。

裏を返せば、SNSで暴言を吐いたり、不倫が発覚したり、飲酒運転で捕まったりしても、それは議会外の出来事ですので、法に基づく懲罰の対象にはならないとされているのです。

そう考えると、議会内の行動が原因で除名処分にまで発展するケースは、相当限定されることが分かります。(「首つって死ね」発言はアウトに近い気がしますが、さいたま市議会は一歩手前の出席停止処分を科した後に、辞職勧告決議をしています。)

背後にいる有権者の重み

上記のように、そもそも除名が相当とされるケースが少ないことに加え、問題があった議員であれ、紛れもなく有権者の負託を受けて選ばれている代表であるということも、簡単に除名には至らない理由でしょう。

こちらは観念論的な部分もあるのですが、制度的には多数派による少数派の排斥も可能となっているため、そうした濫用がなされないよう、歴史的に除名処分の重みが理解され自重されてきた経緯があるのではないかと思います。

疑わしい辞職勧告決議

一方で、ごく最近、政治的・政局的なニュアンスで辞職勧告決議がなされたと思われても仕方のない事例が立て続けに2つありましたので、ご紹介したいと思います。

議長の恫喝疑惑を追求して辞職勧告

1つ目は、貝塚市の平岩まさき市議。予算委員会の休憩中に、報酬委員であった市民から「議長に恫喝された」という訴えがあったため、これを取り上げて調査の必要性を訴えたが、なぜか逆に辞職勧告決議を受けることに。

「議会運営に混乱を招いたため」とだけ書かれた決議文を見たときは、ギャグかと思いました。ファイル名も間違ってるし。。。
・貝塚市議会の辞職勧告決議文

入札制度に疑義を呈して辞職勧告

もう1つは、宇陀市の勝井太郎市議。マニ大の縁でご一緒したこともある方です。市の入札制度の運用に疑問を呈したSNSでの発信が、市や業者に迷惑をかけたとして辞職勧告。しかも2回。
・宇陀新聞の記事(経緯のまとめ)

その後の勝井議員の調査で、問題視していた市の入札が地方自治法施行令に違反しており、会計検査院の実地検査が入って指摘を受けていたことが判明しました。こうした経緯を踏まえ、一般質問でさらなる追及をしようとした本会議の当日、議員が続々と欠席し、定足数に達せず流会に。信じられない力技です。

これは憶測ですが、宇陀市では今週末の4月22日投開票で市議選が行われる予定であり、こうした日程も考慮されての措置だったのではないでしょうか。

なお、勝井議員は現在、市議選と同時に行われる市長選にチャレンジしています。同年代の挑戦者、公正な政治の開拓者として、頑張ってほしいと思います。

地方議会の特徴を踏まえて

地方自治体が二元代表制で成り立っている以上、首長への辞職勧告決議と議員への辞職勧告決議は性質が全く異なります。

地方議会においては、党派や会派が違っていても、議員同士は味方と捉えられます。首長が敵(という表現が適切かは微妙ですが)なのです。つまり、首長への決議は通常の議会機能の一端と言える一方、議員への決議は「もう仲間としてやっていけないよ」というメッセージです。

法を犯すような不祥事があった場合はやむを得ませんが、そうした理由なしに同僚議員に対して辞職勧告を出すということについては、相当に慎重でなければなりません。同時に、辞職勧告を受けないような議会内での関係づくりも重要です。つまるところ、議員同士は味方であるという認識が、まだまだ議会にも世間一般にも広がっていない点を変えていく必要があると言えるでしょう。