念願のオガール視察

研修・視察

昨日の臨時会が終了した後は、猛ダッシュで新幹線に乗り込んで岩手県へ。かねてから念願だった、紫波町のオガール視察に参加してきました。関東若手市議会議員の会の公式視察です。

補助金に頼らない地方創生、オガール

岩手県紫波町は、盛岡と花巻の間に位置し、昭和30年に1町8か村が合併してできた自治体です。人口は3万3千人程度で近年は横ばい、一般会計は約130億円となっており、小規模な町と言えます。

ところが、この小さな町の公民連携プロジェクトが、今や全国から注目され、視察団がひっきりなしに訪れる地方創生の成功事例として語られています。

紫波中央駅前のロータリー。朝8時頃ですが、降りてくる高校生以外の人はまばらでした。

オガール・プロジェクトとは

そもそも「オガール」とは、成長を意味する紫波の方言「おがる」と、フランス語で駅を意味する「ガール」が結びついて作られた言葉です。行政的に言えば「紫波中央駅前都市整備事業」となります。

経緯―動き出しと停滞

紫波町には、JR東北本線が通っているのですが、元々あった駅の中間地点に新しい駅が欲しいという地域の要望がありました。これに対し、

  • 駅設置費用は地元で負担
  • 両隣の駅と乗客を3分割するだけではダメで、ニーズを掘り起こす

という条件で、請願駅として整備されることになりました。

これに対応するため、住宅を増やすだけではなく、公共施設を集めて人の往来を増やそう(年間目標30万人)という考え方が出され、町が保有する10.7haの土地を対象とした「日詰西地区利用基本計画」が策定されました。しかし、いざ整備を始めようという段階で財政問題などがネックとなり、事実上の凍結。土地は塩漬けの状態となってしまいました。

再開

これを再始動させたのが、地元の建設会社の岡崎正信氏です。黙っていても行政から仕事が降ってくる時代が変化していると感じた同氏は、東洋大学の大学院でPFIやPPPを研究し、平成18年、その可能性を町長に提言しました。

これを受け、町長は職員や議員の研修などを行い、平成19年には公民連携元年を宣言しました。その後、平成21年には公民連携基本計画を策定し、議会の議決も経ています。この計画に盛り込まれた地区の1つがオガールなのです。

エージェント役の設置

対象の10.7haを整備するにあたっては、なるべく行政の固定観念を取り払うため、官民連携のエージェントの役割を担うための「オガール紫波株式会社」が設立されました。当初は町が100%出資でしたが、その後は10社の出資となっています。

オガールの特徴

着目すべき点は数多ありますが、町有財産を安売りしないという方針が特徴の一つと言えます。大きなショッピングモールを入れて終わりという形ではなく、この財産の価値を上げることが目指されました。

また、開発にありがちな、用地に最大限の施設をつくるというマインドではなく、収益を想定した逆算方式で進められたことも特筆点です。テナント誘致と家賃相場の調査などからスタートし、本来は3階建てを目指したものが、収益性や建設コストの問題から2階建てで決着しました。こうした工夫により、最初から入居率100%でスタートすることに成功しています。

また、「デザイン会議」という会議体を設置し、各界の著名人に集まってもらい、プロジェクト全体のデザイン性を追求しているのも先進的です。

さらには、町民との意見交換を2年間で100回行うなど、住民の意見も丁寧に聞かれています。大成功しているマルシェは元々計画になかったものが、町民からの希望で設置されたとのことです。

各施設の概要

サンビレッジ紫波

屋内運動場。元々はプロジェクトのエリア外であり、先に整備された施設ですが、現在はオガールに組み込まれています。

岩手県フットボールセンター

年間の交流人口30万人を達成するため、図書館(17~18万人)、町役場(7~8万人)で足りない分を確保しようと引き寄せたのが、県のフットボールセンターです。

誘致の際には県の他自治体とも競合しましたが、町の中心地で駅からも近いというアドバンテージと、さらには賃料20年間分を交付金化するという決断で、協会ごと移転という大勝利を収めています。

オガールプラザ

(産直マルシェの様子)

図書館や産直、子育てひろばやスタジオなどが入る施設で、建設後に町が公共部分をSPCから買い取っています。この購入には国の補助金が用いられていますが、それが民間(SPC)に直接渡っているわけではなく、「補助金に頼らない」と言われている所以ですね。

資金計画上では、先にお伝えした開始入居率100%で、安定したキャッシュフローが見込めることによって、金融機関やMINTO(民間都市開発推進)機構からの融資を受けることに成功しています。

土地所有者は町であるため、貸付によるSPCからの収入が年間2700万円あり、図書館の運営費3900万円の一部がカバーされています。

オガールベース

(テナントが並んでいます)

ビジネスホテルとバレーボール専用体育館(オガールアリーナ)を軸に、コンビニや薬局、居酒屋などが入るエリアです。

アリーナは、国際規格をクリアした日本で唯一の専用体育館であり、行政が主体となったのでは到底建設できない類の施設です。練習や人材育成を目的としているため観客席はありませんが、日本代表チームの合宿にも使用されています。

また、ホテルの稼働率が80%を超えているというのは驚きです。

 (バレーボール専用体育館)

(国際規格で、床の材質はタラフレックスに限られています。)

紫波町役場庁舎

PFI(BTO方式)で整備された役場で、建設に33億8千万、運営は年1億2200万円となっています。国内最大級の木造庁舎とのこと。

オガールセンター

発達支援系の「紫波町こどもセンター」と、小児科や病児保育室、キッズ英会話や美容院、地元小麦を使用した名物ベーカリーなどの入る官民複合施設です。アウトドアショップの前には、ボルダリングのクライミングウォールも設置されています。

オガール保育園

八王子市の社会福祉法人が運営する、定員150名の民設民営保育園です。

オガールタウン

プロジェクト対象地の一角に57区画の住宅地を設け、町が直接、分譲しています。

建物は紫波型エコハウス基準を満たす住宅のみとなっており、指定事業者講習会を受けないと建築はできません。そして、この講習会を受けたのは町内の事業者だけとのことで、域内の経済政策にもなっています。

1軒3000万円程度で、岩手県ではトップクラスの価格だそうですが、57区画のうち33区画が契約済み、13区画が交渉中で、まだ残っている部分もあります。

一連のプロジェクトの中で、このタウン事業だけ少し異色な気がしますが、質問したところ「夜でも明かりが残る部分が必要」という考え方が当初からあったそうです。このあたりは、地域的な特徴があるのでしょう。

(家ができているところと、空き地が混在。駅前の新興住宅(写真の右の方)は電線地中化してあるのに、なぜかこちらは電線があります。)

エネルギーステーション

紫波の間伐材を利用した木質バイオマスによって、役場やオガールタウン、保育園などへの地域熱供給が行われています。

実績

「100万人が集まる」と喧伝されるオガールですが、2016年の実績では、公共部分など集計できるだけで82万人、居酒屋やベーカリーのお客さんなど、それ以外を含めると90~100万人となっています。

また、役場を除いた従業員数が257名となっており、昼間人口がワースト1位とされていた状況への対策ともなっています。

既述の通り、人口3万人の町ですから、この数字は驚異的です。

課題

大成功事例とされ、特に課題の見当たらないと思われるオガールですが、2017年にはプロジェクト対象地の整備がほぼ完了し、管理運営のステージに入りました。この運営が今後どうなるか、注目されます。

また、このプロジェクト自体の話ではありませんが、町内の他の地域をどう振興していくかは課題と言えます。駅の反対側、旧庁舎の奥に昔からある日詰商店街ではリノベーションが進められていますが、オガールのスキームを活用するのか、もしくは全く別の振興策で盛り上げていくのか、紫波町のさらなる手腕が注目されます。

(日詰商店街の様子。)

目黒を念頭においた考察

目黒区でオガールの公民連携スキームがどう活かせるのか。すぐに思いあたるのは、区有施設見直し計画でリーディングプロジェクトとされている目黒区民センターです。

区民センターは、体育館やプール、美術館、ホール、会議室、図書館などが集まった2万㎡の(目黒にとっては)大規模な施設であり、老朽化している箇所も多く、今後の見直しが課題となっています。面積の縮減目標を勘案しつつも、民間を活用した整備を検討することは、もはや避けられないと言っても過言ではないでしょう。

その時に肝に銘じなければならないのは、「中途半端な活用は民間の利点を殺す」ことだと思います。

つまり、ちょっとテナントを入れてみるとか、施設の運営を民間に任せるといった程度では、行政の発想の枠を抜け出すことはできず、かえって非効率となる恐れすらあります。

そうではなく、民間が利益を最大限に、コストを最小限に抑えるインセンティブをしっかりと用意し、大胆に任せてしまう手法でこそ、PPPやPFIのメリットが発揮できると思います。

今期の特別委員会でも、議論の場は用意されるはず。私も、引き続き研究を重ねます。