帰宅困難者対策を真剣に考える

研修・視察

2020.3.18 目黒区議会 都市防災講演会

昨年の風水害なども踏まえて、目黒区議会全体で都市防災に関する勉強会をやろうという話が持ち上がり、定例会の合間ではありますが、本日の実施に至りました。

講師は東京大学大学院准教授の廣井悠先生で、帰宅困難者対策について非常に熱く語っていただきました。

なお、新型コロナウイルスの影響も心配されましたが、「むしろ、今こそ学ぶべきだ」ということで、予定通りの決行となっています。

帰宅困難者について

定義

実は、帰宅困難者に関する定義はバラバラで、報道各社が用いる数字に始まり、政府の発表や報告書ですら統一された定義がないという状況です。

例えば、その日のうちに帰れなかった人であるとか、長距離を歩いて帰った人など、東日本大震災の時の数字を見ても、カウント方法によって9万人~515万人と非常に大きな開きがありました。

このことから、帰宅困難者対策を議論する前には、その定義を明確にして共有しておかないと、全く噛み合わなくなってしまうという事情があります。

問題の背景

首都圏において帰宅困難者が問題となるのは、「大量の人が」「長距離を」「電車で移動」しているという事情による部分が圧倒的で、根底は都市構造の問題とされます。

長期的には、こうした根幹の部分まで考えていく必要もありそうです。

課題となる事象

都市部で災害が発生した際には、たとえ都市自体が壊滅的な被害を受けていなかったとしても、甚大な影響が出ています。

例えば東日本大震災では、記憶に残っている方も多いと思いますが、鉄道が止まったことにより、早期に復旧したバスも長蛇の列と道路の渋滞に巻き込まれました。

無理な帰宅を控える政府の呼びかけが、タイミング的にやや遅く、半分くらいの人は帰り始めていたことが、後の調査で分かっています。大量の帰宅困難者が徒歩で帰る際に死亡した事象は確認されていませんが、震度5強程度ではなく、建物や道路が壊滅状態にあったら、全く状況は異なる可能性があります。

また、大阪府北部地震では逆に朝であったことから、車での出勤を選択した人が多く、道路の大渋滞が発生し、救急車両の遅れなどをもたらしました。

昨年の台風15号や19号でも、朝の電車の運転再開が遅れたため、通勤者が集中して大行列や大混乱につながっています。また、19号では、死亡者の15%が仕事の移動中や通勤中であったとされ、出勤しない事態を想定したルールづくりなど、事業者が災害時の移動対策を講じることが重要です。

今後の対策のポイント

帰宅困難者対策について、都市部の構造的問題は一朝一夕には解決できないため、対応中心の対策となります。最大のポイントは、事業者が従業員をなるべく帰らせない、または出勤させないことにあります。

そこで考えるべきは「移動のトリアージ」とも言うべきもので、建物や道路の崩壊や救急医療、インフラ復旧など、災害時に優先対応すべき事態とそれに伴う移動を明確にしておくことです。

そのためには、行政・事業者・各協議会・個人など様々なアクターの役割を明確にし、発災前からの周知や準備を進めておくことが必要です。

まとめ

帰宅困難者について、首都圏の多くの方が念頭に置いていると思われる3.11はレアケースだと考えなければなりません。

想定すべきはより深刻な被災状況であり、秩序のとれていない移動によって、何らかの被害に巻き込まれるばかりか、間接的な加害者になる可能性があることを踏まえなければなりません。

事業者にとっても社会貢献ではなく、従業員を守り、事業を継続していくための備えをすることに他なりません。

こうした準備を進めることによって、いざという際には帰宅困難者と呼ばれるはずだった人々が救命や復旧の戦力となる、そうした次のステップを目指すことが求められています。