不妊当事者の苦しみ

研修・視察

2020.7.9 不妊治療・性教育PT勉強会

東京若手議員の会に設置されている不妊治療・性教育PT。勉強会の第1回では不妊治療の基礎知識を学び、第2回では妊活を支援する事業者であるファミワンさんの活動(一部しか参加できずブログ報告なし)をご紹介いただきました。

そして第3回となる今回は、病院でカウンセリングをしている平山史郎先生から、不妊治療で悩む当事者の心理状態や関わり方について教えていただきました。

不妊治療をめぐる状況

平山先生は臨床心理士であり、生殖医療施設の常勤心理士として、これまで23年の勤務経験をお持ちです。なお、心理士を置いている施設は非常に少ないそうです。

不妊治療の基礎的な知識は第1回に学びましたが、心理的な負担をめぐる状況については、それを受け止める社会的な要因も大きく関わってきます。

例えば、現在は6組に1組の夫婦が不妊治療・生殖医療を受けるとされていますが、こうして普通の選択肢と考えられるようになったために、受けないことに対するプレッシャーの問題が起こり得ます。

また、他の医療と異なって標準治療がないため、病院や医師によって言っていることが全く違う場合があり、これも受診者を混乱させる可能性があります。

先生いわく、不妊治療については、有名な病院だから良い医療を提供しているわけではなく、最先端は個人経営のクリニックだそうです。ただし、いい加減なところでも妊娠できる人がいるため、こうした見極めが難しいようです。

当事者と接するうえでは、こうした不妊治療特有の背景を踏まえる必要がありそうです。

不妊の苦しさ

先生のカウンセリング経験を踏まえて、不妊当事者の苦しさがどういったものであるのか、整理していただきました。

それは「全人的苦痛」と表現され、身体的、精神的、社会的、実存的な苦痛であると言います。治療自体が辛いだけでなく、不妊となっている自分も、周囲との関係が変化することも辛いのです。また、実際はそうではないのですが、マジョリティからマイノリティになったことへの恐怖を感じる場合も多いようです。

やはり、寄せられる声の中には、不妊治療そのものだけでなく、周辺にまつわる話も少なくありません。夫婦のどちらかが治療を拒否しているケースや、子どもが生まれたけれど以降の夫婦関係に影響しているケースなど、この問題が複雑な側面を持っていることが分かります。

こうした話も含めて、不妊およびその治療の苦しさが簡単なものではないということです。

当事者との関わり方

当事者の心理状態

本日のメインテーマである、当事者との関わり方ですが、一言でいうと「どこに地雷があるか分からない」という状態にあるとの事です。

基本的な心理としては「分かってほしいけど、分かるはずがない」というアンビバレントな状態にあり、孤独を感じ、自分をコントロールできる感覚を失いがちになります。

意識的または無意識的に描いていた「親になる人生」が、少なくとも現時点で変わってしまっていることを受け入れがたく、そのシナリオを書き換えることが困難だといいます。

場合によっては、不妊の恐怖が内面化され、普通へのこだわりが過剰となるケースもあるそうです。

人間関係別の付き合い方

不妊治療においては、家族や友人、職場といったそれぞれの階層での人間関係の変化に悩むことになります。

まず家族では、通常の病気であれば最大の支援者となるはずが、不妊では理解者ではなく批判者にもなり得えてしまいます。「理解はするが口出しはしない」という態度で見守ることが最善のようです。

夫婦の場合は、当事者でもあり家族でもあるという立ち位置になりますが、不妊や生殖における男女の絶対差を理解しながら、お互いの考えをしっかり伝える必要があります。不妊に限りませんが、どちらが正しいかを争うことには意味がありません。

次に友人などですが、子どもの話題を出されたり、年賀状に子どもの写真が入っていたりすると、裏切られたと感じる場合もあり、これまでと同じような関係を維持するのが困難になることもあります。ここでも口出しや干渉をせず、関係の変化を受け入れる考え方が重要です。

さらに、職場の関係で話が出た場合には、評価することなくニュートラルに受け止め、働き方や配慮について、率直に尋ねるのが良いとのことです。ここでは、厚生労働省の「仕事と不妊治療の両立について」というサイトが参考になります。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/30.html

いずれの場合も、良かれと思ってかける言葉はたいてい「ありがた迷惑」になるものと理解し、当事者の話を聞く姿勢を持つことが最も大事なようです。

まとめ

これまでの勉強会でも同様ですが、不妊治療については、周囲の理解が不足していることが大きな課題となっていることをあらためて感じました。

本人の気持ちを完全に理解することはできませんが、どういう状況にあるのかを知り、どういう関わり方をすべきなのかは、議員でなくとも学んでおいた方が良いと思います。

また、別の角度からは、子どもを持つことが正しいという価値観を押し付けることもあってはならず、こうした背景的な問題にも対応しなければならないでしょう。

引き続き、不妊治療・性教育PTの勉強会は続きます。