自治体と行動デザイン(若市議研修)

研修・視察

2018.12.23 全国若手市議会議員の会

年末3連休の中日ではありますが、朝から全若の研修会で大森へ。博報堂行動デザイン研究所の所長である國田圭作氏から、自治体マーケティングについての講義を聞いてきました。

人を動かす「行動デザイン」

自治体も民間企業もその他の団体も、広報や広告など様々なツールで日常的に情報を発信し、イベントへの参加や事業利用の呼びかけ、営業などを行っています。

しかし、認知と好意は必ずしも相関しないため、物量作戦で認知を上げたところで、人々が行動変化に至るとは限りません。

この問題の本質は、情報の送り手と受け手のギャップにあり、それを発信者側が意識しない限り、人を動かす効果は限られてしまいます。

では、どうすれば人は動くのか。これが行動デザインの考え方です。

デフォルトを変える

例えば、臓器提供におけるオプティング・アウト。日本では免許の裏に意思表示欄がありますが、交付されてからそのままにしている方は、けっこう多いのではないでしょうか。一方で、提供を拒否する日本人の割合は低いことが知られており、このデフォルトを変えるだけで意思表示の状況が大きく変わる可能性があります。

行政でも、避難行動要支援者名簿への登録を手下げ方式にすることによって、実績を上げている自治体がありますが、まさに同じような例だと思います。

人間を理解する

もう一つの視点は、「人は正しく行動できない」ことを理解することです。

例えば、エレベーターの「開くボタン」と「閉めるボタン」を間違えること、よくありませんか?

これは、有名なミュラー・リヤー錯視のように、閉めるボタンの方により空間を感じている可能性があると指摘されています。

また、人間は「禁止」という言語をうまく理解できないという分析もあるとのこと。「ポイ捨て禁止」や”No Smoking”という表示を見ても、むしろポイ捨てやSmokingに注目してしまうとも言われています。

こうした人間の特徴を理解しない発信は、確かに空振りする可能性が高そうです。

後悔の最小化

また、従来の経済学が人間は効用を最大化することを前提としてきた一方、近年の行動経済学が指摘するように、後悔を最小化する行動を選ぶという観点も忘れてはなりません。行動の促進的側面よりも、抑制的側面の方が大きいという見方です。

特に現代では、行動を起こすためのお金、時間、手間といったコストが技術の進展により低下する一方で、情報検索や選択といった頭脳コストおよび、周囲に気を遣う精神コストが増大し、損失回避的な行動が強くなっています。

確かに、情報を集めるよりも、余計な情報が入らないようにブロックすることが現代の状況であることは、自らの日常を考えても納得できます。

また、電力自由化において、事前の調査では「安くなるなら97%の人が切り替える」とされていたのに対し、実際に行動したのは10%程度にとどまっており、生活インフラの一部を変えることへの精神的コストが極めて大きいことが示唆されていると言います。

自治体が何らかの良い事業を設定したとしても、こうした背景を顧みずに情報を流すだけでは、それが届いたとしても人の行動には繋がらなさそうです。

同調バイアス

これはよく聞く話ですが、人は社会規範に従う傾向にあるというものです。逆を返せば、起こしてほしい行動を社会規範のように見せることで、達成されやすくなるということです。人々には、ランキングや受賞、行列、権威といった「規範の見つけ方」があります。

アクション・ファースト

少し違った切り口で、ロジックではなく身体性を重視し、体を動かすことが認知に影響を与えるという方法もあります。

典型的な例がクールビズで、ただ「環境を守ろう」「エアコンを28度に設定しよう」というだけではなく、ネクタイを外すという行動が、省エネの理解を得ることにつながったとされています。

また、サンリオのキャラクター総選挙では、スマホ上のキャラをなでて投票することで、愛着を増すことを狙っているとのこと。かつての若者のクルマへの愛情も引き合いに出されましたが、好きだから手入れするのではなく、手入れしているから好きだという状態を作り出すというものです。

方程式

行動を起こさせる方程式は、

Behavior(行動)=Motivation(やる気)×Ability(やりやすさ)×Triger(引き金)

例えば募金であれば、
・お立ち台の上に募金箱を置く→やる気
・江ノ島ビーチでの募金活動→やりやすさ
・箱に子どもの悲しい顔→引き金
など、3要素の何を工夫するのか、戦略を立てることになります。

レーンチェンジ

新たな行動を起こさせるということは、「動かない」ことも含めたこれまでの行動を変えることであり、そのためには障壁を取り除く必要があります。

その工夫の一つが「レーンチェンジ」で、馴染みのあるものと馴染みのないものをセットにすることで、新奇性と親近性のバランスをとる手法です。

ハロウィンのゴミ対策として話題となったカボチャのゴミ袋配布も、ゴミを拾うという既知の行動と、かわいいハロウィンキャラを膨らませていくという新しい行動がセットになって、参加者のアクションを促したと分析されます。

まとめ

その他に、自治体マーケティングへの活用事例もご紹介いただきましたが、ポイントは領域特化にあると感じます。こと行政は、公平性の観点から「あれもこれも」と取捨選択を嫌うため、出来上がった事業やイベントが面白みのないものになりがちです。しかし、それでは人は動きません。

まずは広報の部分から、ターゲットを意識して行動させる考え方を採り入れていけるよう、議会で提案してきたいと思います。