「エスカレーターでは止まる?歩く?」問題

西崎つばさの活動

都議会議員の西崎つばさ(目黒区、39歳、3児の父)です。

初めに、正直に申し上げます。私自身、せっかちな性格も手伝って、駅などのエスカレーターで歩いてしまうことがあります。

自戒の念も込めて、今回はエスカレーターの安全利用についての調査を報告いたします。

エスカレーターの「片側空け」について

国際女性デーだった先日の3 月8日は、「エスカレーターの日」でもありました。目黒区をはじめ東京都内、あるいは関東圏では、エスカレーターの左側に立ち、右側は歩く人のために空けておく習慣をお持ちの方が多いのではないでしょうか。

こうした中で、埼玉県では昨年の10 月に「エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」が施行されました。罰則こそ無いものの、利用者に立ち止まった状態で乗る義務を課す、つまり歩行を禁止する点が特徴的で、賛否両論ありながらも話題となりました。

では、東京都においては、どんな取り組みをすべきでしょうか。実は、都議会で質問しようとしたところ、担当部署が存在しないため、誰も回答できないという事態が発生しました。

縦割りの弊害もさることながら、エスカレーターが都内に数多く設置されていることは言うまでもなく、安全利用に向けた施策について、もう少し検討の余地があるのではないでしょうか。

そこで、問題の背景や論点などについて、皆さまと考えてまいりたいと思います。

安全面から大きな課題

時間に余裕のある人は左側に立ち、急いでいる人は右側を歩くという文化は、一見合理的に思えますが、安全面から考えると、大きな課題を抱えています。

例えば、高齢者や子連れの方などにとっては、横をすり抜けて歩かれるのに危険や不安を感じる場合があります。そもそも、病気や障害のため左側の手すりにつかまるのが困難な方もいらっしゃいますし、介助者や盲導犬がいる場合もあるでしょう。

こうしたことから、東京都理学療法士協会では「わけあってこちら側で止まっています」と書かれたキーホルダーを作成し、エスカレーターに止まって乗ることを呼びかけています。

また、危険はエスカレーターの段上だけではありません。駅などで、左側に乗りたい方が長蛇の列をなしている場面は頻繁に見られますが、こうした渋滞は、狭いホームなどで思わぬ事故に繋がりかねません。

エスカレーター歩行は「想定外」

そもそもエスカレーター自体が、歩くことを想定して設計されていません。

エスカレーターの規格は建築基準法および施行令で定められていますが、歩くことを前提とした階段の規格と比較すると、明らかな違いがあります。

まず、公共施設の階段の幅は140cm以上とされていますが、エスカレーターは110cm以下となっています。これは、必ずどちらかの手すりに届く距離にしてあるもので、片側を空けて歩くための幅が確保されている訳ではありません。

さらに、階段の一段の高さが18cm以下とされている一方で、エスカレーターには基準が無く、20cm以上が一般的となっています。

また、エスカレーターには緊急停止装置の設置が義務づけられているため、もしこれが作動した場合に転倒しないよう、手すりにつかまって乗ることが前提とされています。

お恥ずかしい話ですが、私もかつて歩行中につまずき、ステップに手をついて深めの傷を負ったことがありますが、金属むき出しのステップは、いかにも危険であるように思います。

事故も多発している

現実に、転倒などによる事故も発生しています。

東京消防庁の統計では、2019年にエスカレーターの事故で救急搬送されたのは1428名で、うち2割近くは入院の必要な中等症以上と診断されています。なお、65歳以上の方が全体の6割以上を占めています。

東京消防庁「救急搬送データから見る日常生活事故の実態(2019年)」を基に作成

また、2020年10月の日本エレベーター協会の報告では、事故のうち半数以上が「乗り方不良(歩行する、手すりを持たないなど)」が原因であると分析しています。

輸送効率が低下するとの指摘も

さらに、エスカレーターで片側を空けることは、輸送効率の面からも問題が指摘されています。

NHKの番組内で民間企業が実施したシミュレーションでは、両側に立った場合の方が速く全員を運べることが判明しました。また、ロンドンの地下鉄で行われた社会実験でも、歩行なしの方が輸送量が3割も増加するという結果が出ています。

単純に考えても、「左側は大渋滞、右側はスカスカ」の状態が効率的だとは思えません。

ただし、特定の条件下において、エスカレーターを歩行する人の割合が極めて高い場合には、右側を歩く方が流動効率が良いと指摘する研究もあります。

意識変革のための対策

いくら安全や効率の話をしたところで、いったん根付いた習慣を見直すのは容易ではありません。そこで現在、人々の意識を変えようと、日本各地で啓発活動が行われています。

最も大規模なのが、東京都を含む9都県市、50以上の鉄道事業者、4団体、空港や商業施設などが共同で実施する『エスカレーター「歩かず立ち止まろう」キャンペーン』で、昨年は10月に実施されました。

キャンペーンのポスター

また、身近なところでは、アトレ目黒で2017~18年に、エスカレーターのステップや手すりにデザインを施すことで、安全な利用を促す啓発プロジェクトが行われています。

あなたはどう思いますか?

最新のアンケート調査では、「エスカレーターの歩行はやめた方がいい」と思う人の割合は増加傾向にあり、2020年で86.9%に達しています。

一方で、「歩行してしまうことがある」割合は減少傾向にあるものの、いまだ68.2%となっており、人々にジレンマがあることを感じさせます。

エスカレーターを歩く人にとっては、その方が速いのは事実ですが、それによって他の多くの人が不利益を被っていると考えると、どうでしょう。誤った使い方によって、危険性が高まり、効率は低下し、弱者や多様性への配慮はないがしろにされているとしたら・・・

あらためて、我々はどうするべきか、考えてみませんか?ぜひ、皆さまのご意見をお聞かせください。

※ 過去のレポートはこちら

10 件のコメント

  • エスカレーター右だの左だのと面白がって広めたのはメディアだと思います。なのに特にテレビはエスカレーター歩行禁止二列になって乗ることに対して本当に冷たいです。この悪習広めておいて!片側開けは思いやりマナー何て言われていましたが 今では同調圧力 私だけがマナー違反に思われたくない。みんなそんな思いで片側を開けているように思います。本当に片側ガラガラ 片側行列に疑問をもたないのでしょうか。私は歩行者から迷惑と思われようと必ず空いてる方に乗ります。だってみんな安心して安全に乗って欲しいから。

    • 森下知子さま、コメントありがとうございます。同調圧力になっているとのご指摘、その通りと思います。

      都道府県や鉄道会社などは止まって乗ることの周知を始めていますが、残念ながら片側空けが解消する兆しは見られません。今後、啓発の方法を見直すことを求めてまいりたいと思います。

  • 人の心理を利用して、エスカレータの乗る場所に1段づつ、右側、左側と交互に足型のようなマークを入れると良いのではと常々思っています。横断歩道でもたまに見かけますよね。

    • sさま、ありがとうございます。私もナッジなど行動科学の知見を活用することを研究していますが、ご提案いただいたような仕掛けも一つのアイデアとして、人々の意識に呼びかけていきたいですね。

  • 実際、日本橋の乗り換えでエスカレーター使いますけど、間断なく歩くひとの列ができていています。これ止めて人の流れが止まってしまって非現実的だと思います。二人ならんでのる方が効率いいとの話ですが、歩くの止めても、二人ならんで乗るなんてのはないのでは?知り合いならともかく、大体は左右には並ばず、一段後ろに一人て乗るでしょう。どちらにせよ、片側空きは変わらない。それなら片方によって歩くスペース作った方が効率的だと思います。
    さらに危険性についても一番多いのは酔っぱらいの事故、歩くことによって起こる事故は全体から見ると少数派。これは提示されてる資料にもかいてますよ。

    • 浜名様、コメントありがとうございます。意識改革に繋がる取り組みを模索してまいります。

  • 素晴らしい記事(活動)です。私も子供を持つようになり、エスカレーター歩行を辞め、右側に立つ行動をとるようになりました。しかしながら、都内では後ろから「どけ」や「非常識だな」と罵声を浴びることが多々ございます。
    埼玉県のように東京都でもいち早く、エスカレーター歩行禁止義務の条例化をお願いいたします。
    これからも応援しております。

    • たかあき様、ありがとうございます。
      右側に立つのは、間違った行動ではないにも関わらず、非常に勇気が要りますよね。条例などのルールと人々の意識変革、両面から取り組んでまいりたいと思います。

  • 左手は頸椎ヘルニアであまり力が入りません。
    左半身もその影響で痛みやら不自由です。
    だから右側の手摺りを使いたいですが
    後ろからどけとか言われ辛いです。
    早く東京も埼玉みたいに条例を作って欲しいです。

    • ゆり様、コメントありがとうございます。今の状況は、個々の事情を抱えていらっしゃる方々にとって厳しいですよね。東京都は、啓発もお決まりの行事と化している感があります。埼玉県のような条例も含め、さらなる取組の必要性を痛感しておりますので、引き続き提言してまいりたいと思います。

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