夕張へ。

西崎つばさの活動

朝一の飛行機に乗り込み、北海道へ。関東若手市議会議員の会による行政視察ツアーで、夕張市にやってきました。言うまでもなく、財政再生団体となっている同市のこれまでの状況と今後の展望を学び、それぞれの自治体の舵取りについて考えることがメインテーマです。

新千歳空港から、車で約1時間。
夕張に入ると、誰もがご存知のメロンの直売を案内する看板がチラホラと。古き良き田園風景の広がる土地ですが、住民サービスを徹底的に削った痕跡を探すのが難しいような印象を受けました。

実は昨日からツアーは始まっており、先発隊は、昨年2016年3月に提出された「夕張市の再生方策に関する検討委員会報告書」の作成に携わった、北海学園大学准教授の西村宣彦氏からレクを受けておりました。私は委員会の視察が入っていたため、こちらは聞けず非常に残念でしたが、その報告書を読んで予習してきました。
報告書など(夕張市サイト)

今日は、あらためて簡単なレクを受けた後、夕張市議会議員の皆さまと意見交換会をセットさせていただき、財政再生団体の実情や、議会・議員としての立場などを聞かせていただきました。
さて、夕張は面積が約763平方キロと広大で、そもそも行政効率的に難しい環境に置かれています。なお、目黒区は14.7平方キロですから、比べ物になりません。23区の合計よりも広いのです。

現在はメロンが全国的に有名ですが、なんといってもかつての炭鉱の町であり、石炭産業で大いに賑わった歴史がありました。しかし、その後の石油へのエネルギー構造の転換が境目となり、転落への道をたどることになってしまいます。

ただ、単に何もしてこなかったという訳ではなく、観光業にシフトするために様々な投資を行いました。かつての石炭の町であったことを観光資源と位置づけて集客を狙うこと自体は間違っていないように思えますが、この投資をコントロールできず、また人口減少に伴う行政のスリム化を成し遂げられなかったことが大きな過ちとなってしまいました。

特に人口減少は顕著で、昭和35年には10万7900人であったのが、平成17年には1万3000人にまで落ち込んでいます。9割もの人が、市からいなくなってしまったのです。さらには、あらゆるインフラを築いてきた炭鉱会社が撤退したことで、それらを引き取って管理するコストも大きな負担となりました。当然、その時にはすでに過大なインフラとなっています。

観光産業も、平成5年に230万人の集客があったものが、平成18年には115万人と半減する一方、人件費の割合が高く収益性が悪い状況が続きながらも投資を抑制できず、期間利益で借入金の返済ができない状態に陥りました。さらに、投資して資産があるということは、その維持コストも発生します。

交付税や産炭地域振興臨時交付金の廃止に伴う歳入減に対して、上記のように歳出削減ができなかったために、夕張市は財政再生団体(当時は「再建」)となってしまったのです。

ジャンプ方式という不適切な会計処理が注目され、糾弾される事が多いようですが、それは枝葉の問題であり、財政の舵取りに失敗したのが最大の原因です。

その後の再生にあたって、蓄積された借金は321億円の再生振替特例債となり、これを平成22年から平成38年にかけて、国に召喚していくスキームとなりました。年間約25億円です。夕張市の歳入歳出規模が100億円程度ですから、これは大変な金額です。目黒区に置き換えたら、毎年約230億円を返していくイメージです。

これを実現するためには、徹底的という言葉では足りないくらいの歳出削減を強いられます。財政再生団体前後での決算を比べると、人件費は24億3500万円から7億7500万円と、約7割の削減となっています。もちろん行政サービスも削りに削り、「死ななければ良い」という程度にまで切り詰められました。

財政再生計画にない事業を実施するには、計画を変更しなければならず、それには総務大臣の同意が必要となります。これまでに37回もの変更がなされていますが、当然、常に国にお伺いをたてなければならず、市の自治権や議会の議決権も揺らいでいる状態です。

しかし、新たな希望も出てきています。
本年2017年の3月、抜本的な見直しを行った財政再生計画が議決され、総務大臣の同意も取り付けました。その中では、地方創生の観点から、新たな政策的経費や住民負担の軽減、行政執行体制の見直しなど、「削りすぎて最後は誰もいなくなった」とならないための、未来志向の事業が盛り込まれています。

地方創生のスタートラインにも立っていないと言われる中で、引き続き借金を返しながら人を呼び込むことには相当な困難が待ち受けているでしょうが、夕張市の再生は新たなステージに入ったのです。

最後に、議員の方との意見交換では、本当に悲痛な声を伺いました。市民から見れば、議員に何を言っても行政は動けないだろうという雰囲気があったことや、国と北海道の間で調整がつくまで、議会に報告が来ないこと、9割の人口が減ると「全てが壊れる」といった地元の感覚、企業誘致をしても労働力がなく、実際に開店できない店があるという現実など。

今後、これだけの状態に陥る自治体が出ることは考えづらいですが、人口減少社会の中で、「削る」作業に踏み切れないことの恐ろしさは学ばなければなりません。また、財政の失敗を議会が止められなかった教訓も活かさなければならないでしょう。

究極の事例ではありますが、現地に行って話を伺うとやはり違いますね。気を引き締めて活動していかなければならないと、あらためて自覚いたしました。